遺書。

 

 

拝啓、見知らぬ方々へ。

この言葉が届いた宛先へ。
墨を落とす一文字たりとも無駄にしないように満ち足りないように数多の言葉を綴ってきましたが致し方ないことだけが確かな事実なんだと明らかに見ています。
斑目に居ます。

一面の銃口に囲まれて暮らすような気持ちです。蜂の巣にされるのもそう遠くない未来でしょう。
そんな景色が脳裏を過ります。
次第にそれしか考えられなくなっていきます。
私が筆を置くことにした理由です。

これが最後の手紙です。

 

天国に辿りつくまでの僅かな猶予でさえも
永い永い走馬灯のなか彷徨う命でしょう。

永久に思うほど耐えられぬ退屈を
遺書に記して判決の時を待つ所存であります。

“あなた”に届いたかはわからないのですが、
ただ此処にこの言葉は残っています。

正解か不正解か やってみなければわからないというのが
結局のところです丹精込めて育てた「自分」を
今日を持って破壊することに決めました。
お世話になりました。
またどこかでお会いできることを心の底から祈っております。

というのも、

気付かぬうち、自分で自分を呪っていた。
言葉を解さない石ころに、一人で話し続けていたような心地がしてならないのです。
意味がなく切りがない。この言葉もきっと誰にも響かない。
願わくば、この言葉たちが誰かを呪いませんように。

言葉なんて気休めでしか無いと気づいてしまったのです。では理解しあうなんて絵空事にはもう耐えられないという心持ちであります。

何光年の距離があって届かない光なら
知らないままで簡単な話だったのです。

“あなた”に届いたかはわかりません。
ただ後世にこの言葉は漂っているでしょう。

永すぎる生のなかで交差したことを祝ってください。それ以上は望みません。ましてやそれ以上は望めません。

 

再び申し上げますが、私の命は

天国に辿りつくまでの僅かな猶予さえ
永い永い走馬灯のなか彷徨う命でしょう。

永久に思うほど耐えられぬ退屈を
遺書に記して判決の時を待ちます。

 

ありがとうございました。 敬具。